TOPアメリカン・プロレスWWE 2012年 →WWE:Extreme Rules 4/29/12

WWE:Extreme Rules 4/29/12の分析


名勝負 エクストリーム・ルールズ:ジョン・シナvs.ブロック・レスナー
好勝負 世界ヘビー級王座戦、3本勝負:シェーマス(ch)vs.ダニエル・ブライアン

WWE王座戦、シカゴ・ストリート・ファイト:CMパンク(ch)vs.クリス・ジェリコ

@フォールズ・カウント・エニウェア:ランディ・オートンvs.ケイン
 ボブ・オートン襲撃含め精神的に揺さぶられたオートンですが
 ゴングが鳴る前にアピールしていましたね。
 悪いといっている訳ではないですよ。
 抗争のヒートを前面に押し出す訳ではない、と主張していただけ、という話。
 続いている抗争としては勿体無い気もしますが
 1大会の中での他のビッグ・マッチとの兼ね合いを考えると仕方ないところでしょう。

 序盤はケインが地獄突きで場外に落としたシーンが印象的。
 ケインのハード・ヒッティングという魅力を活かした良いスポットですが
 その直後にカバーして台無しにしている。
 序盤でルールを示すことは丁寧だし求められていることだけれども
 形式のために試合自体、ケイン自体のスケールを下げては元も子もない。
 直後に鉄パイプを出したのも相当なショート・カットに見えます。
 ただオートンのパイプの打ち付け方は素晴らしかったですね。

 中盤は観客席に入って盛り上げ。
 少し前のTNA的なやり口ですね。
 オープニングでリングにいない時間が長いのはどうかと思いますが、
 熱いシカゴの観客においては問題ないようです。
 中盤においてもケインはカバーが多いですね。
 以前のような肉体的強さが売りではなくなったとはいえ
 それ以上の付加価値が生まれていないし魅力を薄めただけになっています。
 ライダーが乱入してきましたが喉をつかまれただけでフェード・アウトしたのはナンセンス。
 憎んでいるのならチョーク・スラムの一つや二つ食らうまで食い下がってしかるべき。
 オートンにとっては余計な存在でしかないけれど、やるならやるで、やらないならやらないで良い。
 中途半端が一番いけない。

 終盤はリングに戻って。
 ハードコアという盛り上がりやすい効果が
 気持ちよいほどに観客に作用して盛り上がりました。
 ケインは最後までカバーしすぎで良質なハードコア・マッチという訳ではないんですけどね。
 しかしオートンの教科書に載っている動きに加えた身振りは最高でしたね。
 RKOの前にわざと中空を見つめたのも格好良すぎます。
 平均より少し上。

Aブローダス・クレイvs.ドルフ・ジグラー
 クレイはファンキーな奴という印象を与える身振りができていますね。
 スワグルとダンサーを連れていて見栄えも良い。
 受身・痛がり方も悪くないです。
 一方のジグラー。
 サブミッションに戻る基本スタイル。
 淡々としがちなスタイルですが
 サブミッションによって必死さを醸すことができていますね。
 Yシャツ姿でセコンドについているスワガーも良く、
 HBKとディーゼルのコンビを彷彿とさせる所がなくもない。
 スカッシュ・マッチといえばスカッシュ・マッチだが
 それを両者魅力的に行なっていて気持ち良い試合です。

Bテーブル・マッチ:ビッグ・ショー(ch)vs.コーディ・ローデス
 WMと同じで力量差をかなりつけた設定になっていますね。
 テーブルの設置もかなり早いです。
 しかし通常試合と違ってテーブル・マッチというゲーム性の高い形式ですから
 コーディの勝利の可能性も残されています。
 ビッグ・ショーが復讐の色合いも出しているので単調になりません。
 序盤の展開内に収まった内容ですが
 最後のユニークなオチで終わるならこの尺であるべきで文句はない。
 それをしっかりこなした上で試合後にテーブル葬があるから不満も残りませんし、
 それどころか更に2発目、コーナー・テーブルにミス・ディレクションさせての
 場外テーブル投げ捨てスポットがあるので満足感すら生まれている。
 悪くない試合。

C世界ヘビー級王座戦、3本勝負:シェーマス(ch)vs.ダニエル・ブライアン
 シェーマスは意図的な雑さでブライアンなど敵ではないと示している。
 一方でグラウンド・ヘッド・ロックの動きは力強く、
 相手を落とすだけでなく自ら上げる形でも自己の価値を向上させている。
 このバランスの良さはHHHを髣髴とさせます。

 最近のWWEでは珍しいレスリングを行なった上で、
 シェーマスがこんな技もあったのかとサプライズを生み出します。
 その中でテキサス・クローバー・リーフを見せたのは大きい。
 3本勝負において通常必殺技とは別のフィニッシャーの可能性があると見通しが広がります。

 全体の構成を良く考えながら点を配置。
 非常に堅固な作りとなっています。
 ブライアンはまったりした試合運びに合わせて蹴りではなくアッパーカートを基本技に持ってきていましたね。
 受けにおいてスマートなエプロン移動も見せていて、
 シェーマスの何でも出来ることを上手く活かしている。
 その点ではROHのマイケル・エルガンとも被りますね。

 一つ一つの技でしっかり盛り上げながら進行。
 必殺技を未遂ながら見せた後、シェーマスが鉄柱自爆。
 これでブライアンはようやくYESロックが決まる見通しを得ました。
 それまでブライアンは厳しさこそ出ていましたがキャラはまったくなく
 ROHのレスラーみたいでWWEのスーパースターらしさはありませんでした。
 しかしこの後のYESと叫びながらの腕蹴りから始まり
 DQエンド→YESロックで即座に追いつく展開でキャラも後追いながら高めてきました。

 3本目開始時にブローグ・キック炸裂を持ってきて死闘感を醸したリセット・スタート。
 シェーマスは意識を失った表現も良く、
 典型的反撃時にクローズラインではなくダブル・アックスで行なうセンスも良かったですね。
 ただどの要素も高いレベルでこなしていますが
 一流レスラーの絶頂期のような特別なレベルには辿りついていないか。
 ブライアンも技のスケールのなさが響き、3本目はややあっさりした印象を残してしまいました。
 また、シェーマスは結局テキサス・クローバー・リーフを終盤で使わなかったですね。
 勿体無い。
 しかしシェーマスが遂にベビーフェイスとしての可能性を示し、
 ブライアンがROH時の構成能力を存分に発揮した素晴らしい試合。
 エクストリーム・ルールズというコンセプトの中で
 ハードコア要素のない高レベルの試合の存在価値は大きい。
 文句なしに好勝負。

Dライバックvs.アーロン・レリック、ジェイ・ハットン
 ライバックはスキップ・シェフィールド時代に比べて迫力が増しましたね。
 ゴールドバーグ・チャントはあながち間違っていない。
 その観点からいうとバックパック・スタナーと変形サモアン・ドロップという大技が
 スピアー、ジャックハマーに比べて強キャラのイメージに合っていない気がしますね。
 それでも今後に期待しておきましょう。
 スカッシュ・マッチでした。

EWWE王座戦、シカゴ・ストリート・ファイト:CMパンク(ch)vs.クリス・ジェリコ
 パンクは抗争に合わせて見事に感情を高めてきましたね。
 憎しみを前面に出してきていて、
 今回の試合の中心となる竹刀もフィットしている。
 ジェリコは前回と同じくタフネス低めの設定。
 凶器があるので前回のようなダメージ感を独自に作り上げるというよりも
 ドラマを前に出してそれ以外がでしゃばらないようにする意味合いがありますね。
 抗争のヒートは目を見張るものの行動・スポットに関しては
 比較的数もインパクトも足りないので地味といえば地味ですね。
 パンクの妹がジェリコに平手打ちをかますシーンがありましたが思ったより機能していませんでしたね。
 他の家族も出てくるぐらいの大きな演出補佐があっても良かったかもしれません。
 ベース・ラインからの逸脱が少なく、終盤も毎度お馴染みのGTSとWoJの攻防です。
 それでもジェリコの表情による演技によりボリュームがある以上の価値が生まれていました。
 ぎりぎり好勝負。

Fディーバズ王座戦:ニッキー・ベラ(ch)vs.レイラ
 ニッキーは動きの切り方や脚攻めに練習で身に着けたセンスを感じさせましたね。
 ツインズという分かりやすい売りもありますし、
 この試合を見る前よりも離脱が少し残念になりました。
 レイラはしばらく戦線を離れていたことを考慮すると悪くない動きです。
 しかしヒール時に受けを良く理解していたことを考えると
 ベビーフェイスとしての復帰には疑問符。
 また個人的には前のヘア・スタイルの方が魅力的でした。
 時間が短いということで評価的には悪い試合の範疇。

Gエクストリーム・ルールズ:ジョン・シナvs.ブロック・レスナー
 初手でレスナーはタックルをかましてエルボーをこすりつけました。
 パンチではなくエルボーをこすりつけてカッティングを狙った。
 そして実際に流血した。
 PGルールでは流血がご法度なはずです。
 それがこの特別なカードを前に上層部が例外とする決定を下したかは定かではありませんですが
 少なくともこの自主的行為によってレスナーはWWEの法の外の及ばぬ存在であることをアピールしました。

 流血はメディカル・チェックをもたらしましたが
 レスナーはMMA経験者であり、プロレス経験者であることから
 MMAギミックをしっかり演じ、空白の待ちも表現としてこなすことができている。
 いつもなら倦厭されるメディカル・チェックでしたが
 この試合においてはアクシデント性を演出するリアリティーしかもたらしていない。

 メディカル・チェック後レスナーが同じ方法論、
 つまりタックルからマウントを取って圧倒。
 方法論がもたらしたダメージによって優位に立ったのではなく
 何度でも使える方法論によって優位に立ったのだと言う。
 ダメージや展開よりも方法論は重いものです。
 実際にMMAシーンがそうであったように方法論は有無を言わせず圧倒的です。
 揺らがない強さが圧倒的に形作られました。
 更に相手の補助なし、説得力のあるジャーマンを重ねたことで
 凶器はまったく使っていないにも関わらず
 それ以上の、そう肉弾凶器というエクストリームを生み出しました。

 早い段階でレフェリー気絶が入ります。
 特に幻のフォールを生み出す訳ではないけれど
 アクシデント的なことを序盤に続けたことで特殊な環境が作られた。
 その点でこのレフェリー気絶は大きな効果を担っています。

 レスナーはとてつもない存在感を発揮し、
 それを発揮する環境、相手が揃いました。
 後は試合運びですが、プロレスから5年間離れていた訳ですから、この点ではおそらく衰えているのでしょう。
 しかしそれ故のMMAギミック。
 他と違って特殊なスタイルとなるMMAスタイルは空白を繋ぐことが重要になります。
 特に相手が同じMMAの武器を持っていないなら尚更です。
 その点レスナーは空白を良い感じに煽ることができているし、
 中盤からの展開付けとなる腕へのサブミッションもまた一定の積み重ねが存在する。
 レスナーを補佐するためにチェーンのユニークな使い方や
 鉄階段を絡めた後半の見せ場を考えたクリエイティブはグッド・ジョブですが、
 レスナーの補佐を受けながらもそれを食って自分の手柄にして見せるところが凄いですね。
 鉄階段を踏み台にエルボーを打つスポットでは異常な勢いをつけ場外転落しましたが、
 ケロリとした顔でリングに戻り、実行者として想定以上の効果を上げていました。

 攻守の比率は去年の年間最低試合、シナvs.ミズに匹敵します。
 それゆえどうしてもレスナーを主語にしてレビューすることになりましたが
 レスナーが攻め手として貢献したのとほぼ同等なレベルで
 シナも受け手として貢献していた。
 シナはオール・タイム・ベスト・レベルのダウン表現という武器をこれまでにない程活かしきって
 MMAスタイルの原点、1つの技が持つ価値の見直し、につなげました。
 受けの技術も冴え渡り予断なくリアリティーを維持しながらプロレスとして発展させました。

 同要素のコミュニケーションはないが
 それぞれ相手にない一級品の要素を持ち込み、
 試合全体としては美しい化学反応を示している。
 一方がシューティング・プロレス上のスタイルをまったく持たないという
 前代未聞のコンセプトゆえに比較対象となるものは失敗試合ばかりで正規分布もありやしない。
 それ故評価がぶれる所でしょうが個人的にはMOTY候補。
 ぎりぎり名勝負とします。

総評
 マスクマン再転向後のケインに再び幻滅した他は
 アンダーカード含めてどの試合も面白かったですね。
 中でも両王座戦とメインがどれもショーをスティールするレベルで試合を作り上げてきていた。
 大会のつりあいを取るWWEにしては珍しいことで、
 その挑戦を試み、どの試合もがビッグ・マッチにして尚、大会としての完成度も壊れていない。
 早くも今年のショー・オブ・ザ・イヤーは決まったな、という感じ。
 (執筆日:5/3/12)
DVD Rating:★★★★★

注目試合の詳細

なし

試合結果

@フォールズ・カウント・エニウェア:ランディ・オートンvs.ケイン
Aブローダス・クレイvs.ドルフ・ジグラー
Bテーブル・マッチ:ビッグ・ショー(ch)vs.コーディ・ローデス(新チャンピオン!)
C世界ヘビー級王座戦、3本勝負:シェーマス(ch)vs.ダニエル・ブライアン(2-1)
Dライバックvs.アーロン・レリック、ジェイ・ハットン
EWWE王座戦、シカゴ・ストリート・ファイト:CMパンク(ch)vs.クリス・ジェリコ
Fディーバズ王座戦:ニッキー・ベラ(ch)vs.レイラ(新チャンピオン!)
Gエクストリーム・ルールズ:ジョン・シナvs.ブロック・レスナー