TOPアメリカン・プロレスTNA 2011年→ TNA:Bound for Glory 10/16/11

TNA:Bound for Glory 10/16/11の分析


名勝負 なし
好勝負 なし

@Xディビジョン王座戦:オースチン・エリーズ(ch)vs.ブライアン・ケンドリック
 ケンドリックが倦怠感を仄かに漂わせながら
 動きとしては軽快な連続押しで攻めていく。
 エリーズはその攻めに合わせて反復ネタで盛り上げる形。
 パワードライブ・エルボーでの煽りと
 スライス・ブレッド#2の受け身は印象的です。
 オープニングらしい賑やかな方向性で、まあまあ良い試合に仕上げました。

Aフル・メタル・メイヘム:RVD vs.ジェリー・リン
 Destination Xの試合は大変感心したものですがこの試合は正反対の感想。
 シークエンスの中でお互い共通の絵図を描いて
 そこでの妙あるカウンターで刺激し合い試合を高めるのがこの数え歌。
 残念ながらこの試合ではその前提条件が成立していない。
 カウンターを多量に含むし、
 過激度をコントロールしながら中盤から最後まで凶器に対して体を張り続けるので
 良い試合ではあるけれども数え歌と呼べる境地になかった。
 数え歌を懐かしむ側に本人達も入ってきた印象すら受ける。
 平均的な良試合。

Bクリムゾンvs.マット・モーガンvs.サモア・ジョー
 なんら状況は好転していない気はするが、
 それでもジョーは意欲的になっていて
 冷静に3ウェイの舵取りを行っている。
 一方で3ウェイになる中でクリムゾンのMMA系の強さは要素にならず、
 モーガンも相変わらずトータル・パッケージとは程遠い軽さに留まっている。
 モーガンは膝が痛むために最後カットできなかったというは分かるが
 あの距離ならクリムゾンがフォールしているのは見えていたように見えます。
 カットしようとする動作すら見せなかったのは問題。
 痛みを耐えて何かを為すのはレスラーの一つの性質で
 それを放棄する事はたった一つのディティールであっても試合の価値を疑わせる。
 平均レベル。

Cフォールズ・カウント・エニウェア:ブリー・レイvs.ミスター・アンダーソン
 一つ一つの細やかなリズムが機能し、
 徐々にステップを上げていくの試合展開が出来ています。
 後半からはブリーのラフ・ファイトにおけるアピール能力と
 アンダーソンの人気を利用した演出を利用した内容。
 終盤は柵、テーブルを投入して盛り上げました。
 最初のレールだけ頑張って作って後は全自動でクオリティが落ちないようブックがサポートした形。
 最近のアンダーソンを見る限り正しい答えです。
 まあまあ良い試合。

Dノックアウツ王座戦、4コーナー・マッチ(レフェリー:カレン・ジャレット):ウィンター(ch)vs.ベルベット・スカイvs.ミッキー・ジェームスvs.マディソン・レイン
 4コーナー・マッチという事で
 各シーン、タッグ・マッチやベビーフェイス対決と色分けされているものの
 まったく戦いとしてのヒートがなく低レベルな攻防を垂れ流し。
 カレンもヒール側に与しているというよりベビーフェイスのレフェリングを放棄しているというような状況で、
 試合に見る価値がないという印象に拍車をかける結果となっている。
 ひどすぎる試合。

Eアイ・クイット・マッチ:AJスタイルズvs.クリストファー・ダニエルズ
 蓄積性のものから一撃性のものまで、
 主導権を握るためのものから相手をKOさせるためのものまで
 技というものはそれぞれベースのカラーを持っているものだけど
 それに対してダニエルズは技を痛みを与えるものとして
 試合における概念を再構築している。
 AJもそのラインにのっておりアイ・クイット・マッチの王道と言えるでしょう。
 しかしそれは2人の王道ではない。
 だからこそAJは迷いが生まれて自らの技に逃げる事になっている。
 そもそもアイ・クイット・マッチの王道が常道ではないという所に根本的な問題がある。
 特殊形式の表現としてはそれは真面目すぎて面白みを生む余白がない。
 王道を行くというのなら余白のない中で
 自分のスタイルもこそげ落としてUWFスタイルのような所まで行かなければならなかった。
 そこまで突き詰めれば景色の中に新しい色が生まれていました。
 まあまあ良い試合。

FノーDQ:スティングvs.ハルク・ホーガン(スティングが勝てばディクシー・カーターが復権する)
 ホーガンは絵になりますが、
 相手が身をよじらせる程度でも動けば
 もう簡単にその絵が崩れてしまっていてとてもレスラーと呼べるレベルではありません。
 それ故にホーガンが一方的に攻める形。
 流血した所で何の溜めもないままスティングが反撃し決着までストレートに。
 ホーガンの攻め→スティングの攻めの2ターンで行くとしても
 もう少し格好がつかなかったものかひどすぎる試合です。
 中身が余りに伴わなさすぎて試合後のホーガンのフェイス・ターンは
 vs.ザ・ロックを小規模でパロディー化させたような印象だが、
 ストーリーのキャラとして観戦しているはずのディクシー・カーターが
 童心のような眼差しで見つめている所を見ればまあやったかいもあったのかなという気がする。

GTNA王座戦:カート・アングル(ch)vs.ボビー・ルード
 カートならばメインを構築する方法は幾つかあったでしょう。
 新しいスターを同格として迎えても良いし、
 その勢いを老獪な戦略でいなしても良い。
 方向性としては後者を想定していたように見えますが、
 早急な一度目の両者ダウンまでの攻防は必要最低限の容量まで削ぎ落とした張りぼての攻防です。
 後半はクロス・フェイスとアンクル・ロックをダイレクトに切り返しあう攻防をメインに据える。
 カートvs.ベノワによって型は出来ているので特にオリジナリティーは感じ取れない。
 必ずしもオリジナルである事だけが重要ではありません。
 その型をどのように実行するかに個性、技術、能力を発揮すれば良いのです。
 しかしこれまたテンポを遅くして間を開けるべき所でも速いテンポを維持したままとしている。
 アンクル・ロックでのボリューム増しのような構築は最近のカートには珍しくない事だけれども、
 ここまでいくと放送終了時間が予定より迫っているのだろうな、と推測される。
 
 さてこの試合の決着に話を移しましょう。
 まずルードに戴冠させる事が手っ取り早い大団円としてのまとめ方です。
 急に出てきて王者に上り詰める例にはもうみんな慣れている。
 しかしホーガンの工作活動によってかは知りませんが、
 とにかくカートを防衛させるという結果を選択したようです。
 ならば戦いの中でルードは資質を示す事が出来たのか。
 中身はガイドラインに従って良い試合と呼ばれるポイントを押さえただけの代物です。
 そしてルードにアピール力があったか、スター力を発揮したかというと否で
 ホーガンのルード評がまったく的外れでもない事に困り果てる。
 仕方ないので価値ある負け方をして欲しいものですが
 最後にカートがアングル・スラムを決めてフォール勝ちする際ロープを掴むという行動に打って出る。
 ロープを掴んで抑え込み、カートがヒールとして小ずるく防衛したのなら話は別です。
 BfGという大舞台と矛盾してはいるものの次回でルードがリベンジしてリターンが返ってくる可能性はある。
 しかし困った事にカートはただロープを掴んだだけで、
 ボビーもまったく抵抗する素振りは見せない。
 その前の人為的なアップ・テンポの切り返し合いといい
 2人の中でもう終了させようという合意が出来ていて、
 レフェリーに終了を示唆するためにロープを掴んだとみるのが筋でしょう。
 痛めていた膝裏の健を悪化させたのかもしれません。
 仮にそうだとしましょうか。
 一年間の大舞台のメインで、相手はこれまでのキャリアにないチャンスを与えられている、
 そんな状況で試合を諦めざるをえない程重症なのか。
 いや、ロープを掴むという行為が観客にどのように受け止められるか、
 まったく考えの及んでいない軽薄なロープ掴みを見る限り、
 その可能性を試合前に描くほどの爆弾だったとは到底思えないのです。
 そこには言い訳の余地なんてまるでない。
 誰が過ちを犯したのか。
 当事者のカートやルードなのか。
 それとも権力を行使するホーガンなのか。
 はたまた翻弄されるブッカーなのか。
 おそらく彼ら全員がそうなのでしょう。
 それぞれの罪の色が何色なのか。
 あるのはおそらくその程度の違いです。
 まあまあ良い試合。

総評
 平均点は稼いでいるけれども強烈に印象に残るほどでもないし、
 コントロバーシャルだけれどもTNAならまた別のネタをすぐにでも提供してくれるのでしょう。
 12の大会の一つに過ぎません。
 (執筆日:10/19/11) 
DVD Rating:★☆☆☆☆

注目試合の詳細

なし

試合結果

@Xディビジョン王座戦:オースチン・エリーズ(ch)vs.ブライアン・ケンドリック
Aフル・メタル・メイヘム:RVD vs.ジェリー・リン
Bクリムゾンvs.マット・モーガンvs.サモア・ジョー
Cフォールズ・カウント・エニウェア:ブリー・レイvs.ミスター・アンダーソン
Dノックアウツ王座戦、4コーナー・マッチ(レフェリー:カレン・ジャレット):ウィンター(ch)vs.ベルベット・スカイ(新チャンピオン!)vs.ミッキー・ジェームスvs.マディソン・レイン
Eアイ・クイット・マッチ:AJスタイルズvs.クリストファー・ダニエルズ
FノーDQ:スティングvs.ハルク・ホーガン(スティングが勝てばディクシー・カーターが復権する)
GTNA王座戦:カート・アングル(ch)vs.ボビー・ルード