TOPアメリカン・プロレスAEW 2019年 →AEW:Double or Nothing 5/25/19

AEW:Double or Nothing 5/25/19の分析


名勝負 コーディvs.ダスティン・ローデス
好勝負 ソーカル・アンセンサード(クリストファー・ダニエルズ、フランキー・カザリアン、スコーピオ・スカイ)vs.ストロング・ハーツ(CIMA、エル・リンダマン、Tホーク)

AAAタッグ王座戦:ヤング・バックス(ch)vs.ルチャ・ブラザーズ(フェニックス、ペンタゴンJr.)

@初代AEW王座#1コンテンダーズ・22マン・カジノ・バトル・ロイヤル
Aキップ・セイビアンvs.サミー・ゲヴァラ

@ソーカル・アンセンサード(クリストファー・ダニエルズ、フランキー・カザリアン、スコーピオ・スカイ)vs.ストロング・ハーツ(CIMA、エル・リンダマン、Tホーク)
 空気察知能力の高いダニエルズ、CIMAから始めると
 Tホークに対抗するパワー・ファイターの役をカズが務めて繋ぎ良い雰囲気に。
 控え介入による主導権の奪い合いは
 オープニングということで軽やかに行いつつも
 プレショーである程度暖かくなっているので、
 自己主張も抑えすぎずアピールしている。
 トリオの見せ方はOWEに一日の長がありますが、
 ソーカルも経験を活かして形を作るので負けていません。
 オープニングの節度、試合時間の中でベスト・ワークをしました。
 ぎりぎり好勝負。

Aブリット・ベイカーvs.オーサム・コングvs.カイリー・レーvs.ナイラ・ローズ

Bベスト・フレンズ(トレント、チャッキーT)vs.アンヘリコ、ジャック・エヴァンス

・試合後スーパー・スマッシュ・ブラザーズが両チームを襲撃

C志田光、里歩、水波綾vs.アジャ・コング、さくらえみ、坂崎ゆか
 女子プロの輸出といった按配ですね。
 坂崎はキャラをスキルで持って表現していてCool Japan!
 里歩はアイスリボン以来で久しぶりに見たけれども
 彼女特有の応援したくなる魅力は損なわれていない。

 対極にアジャと水波が配置されていて、
 バリエーションという意味では貢献しているものの
 ちょっと日本の女子プロ村的見せ場をするのが
 本来の趣旨に合っているようでいて、
 やっぱり"村"なのでどうなのかな、という気がする。
 
 アジャは里歩とのマッチアップが視覚的に凄かったですけど
 もう動けなくなっていますからね。
 最近成功したvs.志田に頼っても良かった気がします。

 好勝負に少し届かず。
 WCWでいうことろのクルーザー級ディビジョンみたいな位置付けに
 日本女子がなれば面白いですね。

Cコーディvs.ダスティン・ローデス
 プロモでコーディが語ったところによれば
 このお題目は兄vs.弟でもナチュラルvs.ナイトメアでもなく
 ジェネレーション対決なのだといいます。
 これはこの試合を読み解く上で非常に意味ある言葉です。

 ダスティンはNWAプロレスを見て育ち、
 スティングに次ぐ若手有望株と目されるナチュラルであったものの
 アティテュードへの時代の変化の中でナイトメアになり、
 トップからは離れてしまったが変えの利かないポジションを得ました。

 一方コーディはアティテュードを見て育ち、
 血統を活かしてナチュラルとして売り出されるも
 TVの規制/政争/メジャーのインディー化に翻弄され、
 スターダストから始まりナイトメアになることで殻を破ろうと試行錯誤している。

 新たな団体で二人ともナチュラルにもなれるし、ナイトメアにもなれる。
 しかしその背反する両方が確かに自分自身で、
 それぞれに矜持とコンプレックスを抱えている。

 コーディは入場時に入り口に置いたHHHオマージュの玉座をスレッジハンマーで破壊。
 HHHを批判しつつ、その振る舞いは非常にアティテュード的です。
 そして試合でも17歳年上の50歳という
 ダスティンの年齢、身体能力の衰えを馬鹿にして挑発。
 セカンドの奥さんも使ってこてこてのアメプロヒールを演じます。
 ダスティンが本当に動きに制限がある中で
 間合いの微調整は非常に気を使っているし、
 部位攻めで抑揚をつける理由を作っている。

 対するダスティンはハーフのゴールダストペイントで登場。
 ナチュラル面/ナイトメア面両方含有してこの試合に臨みます。
 経験を活かした定番ムーブの配置も評価すべきですが、
 体に鞭打ってトペ・アトミコを放ち、決意をこめて流血する、
 その年齢に似合わぬ勝負手がこの試合を特別にしている。

 プロレス界でも5本の指に入るほどのダスティンの大流血の中、
 色々な因果で翻弄されて世に出ることのなかった彼らの真価が発揮されていく。
 
 ダスティンの血を自らの体に塗りたくりながら攻めるコーディの振る舞いは見事。
 カバー数も上手く絞って試合を進めている。
 WWE離脱後新日本プロレス参戦などで
 自分の進むべきヒールの資質は見出していましたが、
 10年代の技の攻防というベクトルでは頭打ちの感もあった。
 こういう煽り中心でいける80年代スタイルでこそ
 コーディは真価を見せれるのかもしれない。
 プロモーションも含めて
 この日ほどコーディの中のダスティ・ローデスの血を強く感じたことは無かった。

 対するダスティンはフェイスとしての見事なセル、
 勿論年齢と流血量を考えれば
 スキル以上にリアルによってその表現は構成されているかもしれませんが、
 その割合がどうのこうのというのは野暮です、によって
 運命論的試合運びが実現されています。 

 ダスティンがコーディの尻をシバき
 ヨシタニック等負荷のかかる技を先に放つことで、
 兄vs.弟ではないと冒頭でいいつつも
 ジェネレーション対決の文脈の中に
 当然含まれている兄vs.弟の要素へ回帰していく。 

 コーディのクロス・ローズ炸裂は
 流血量・構成双方から見てもフィニッシュとしてまとまる位置付けでしたが、
 そのポイントを超えてニア・フォール合戦へ。
 倒れこんでのエルボーを打ち合うなど、
 その中で相同性を一層強化すると共に
 フェイス/ヒールといったプロレスの仮想を拭い去ってフィニッシュ。

 ようやくリアルに戻れた試合後(エピローグ)のコーディの言葉、
 ここで引退はさせない、来月ヤング・バックス相手に俺たちは組む、
 俺に必要なのはパートナーでも友人でもない、兄貴なんだ、というのは
 少々直接的過ぎる試合の結びではありましたが、
 この試合のドラマはまさにそこにあります。

 プロレス史に残るブラッドバスという要素がこの試合を特別にしたことは間違いないが、
 ブラッドバスだけではいけなかった領域に押し上げたのは
 この2人のバックグラウンドとこれまでの歩みの一歩一歩によるものです。
 プロレス界へのインパクトまで考慮すると今年のMOTYかもしれませんね。
 文句なしに名勝負。

・ブレット・ハートが登場。MJFが絡むもペイジとジミー・ハヴォックが現れMJFを制裁。

DAAAタッグ王座戦:ヤング・バックス(ch)vs.ルチャ・ブラザーズ(フェニックス、ペンタゴンJr.)
 セロ・ミエド・アピールと必殺技の狙い合いからの演舞は
 場外に及んでも続き特別感を演出。

 Yバックスは控え受けを少ししたものの、
 古典ヒールにはならず1対1の焦点を維持。
 その中で連携技量も非常にバランス良く混ぜています。
 連携云々だけでは中々いけない領域を
 一時期シングルでのりかけたマットがしっかり演出。

 見せ方で定番ムーブに意味性を加えたり、
 定番ムーブに+1ムーブ加えて工夫をこらしたり、
 色々と用意された大小のスポットどれもが
 観客も含めてリアクションを生んでいます。

 ただオール・インの意識の中で中盤以降はややフラット。
 長引かせる為の趣向が、伏線回収不十分になってたりするので、
 クライマックスはもう少し短くした方が良かったか。
 文句なしに好勝負。

E初代AEW王座#1コンテンダーズ・マッチ:クリス・ジェリコvs.ケニー・オメガ
 通常ルールなので何をするかという中では
 年齢が制限要素になってきますが、
 その中で選んだ行動に関しては
 打撃の打ち方やその動作の緩急で
 ネガティブに感じさせなかったりする。

 その上でジェリコはゴングを鳴らしたりカメラで取ったり
 ユーモアを交えながら大局観で下地作り。
 凶器を使わずとも乱戦で成功できることは
 NJPWで実績がありますから堅実な出だしといえるでしょう。

 技を使わずに前半を作った後、
 オメガが雪崩式バック・ドロップで反撃。
 一気にに技の攻防に舵を切りますが、
 ジェリコは長いキャリアの中で
 必殺技を複数持っていますので、
 その数、と決め方のバリエーションで勝負しています。

 対するオメガですが、
 相手が相手なので控えめにサポートに回る形。
 流血に加えて場外テーブル葬まで受けて
 ダウン・モードになった後、いつもの過激技へ。
 ただ技に対する時代的感覚差があるので
 攻防自体はそんなに噛み合っていない。
 無駄にニア・フォール数を意識するよりも
 オメガが耐えて耐えて過激技一発で逆転ぐらいの方がクオリティはあがったでしょうね。

 また、ジェリコは必殺技数で勝負しているので
 新技を開発すること自体は悪くないものの
 ジューダス・エルボーは絵として弱い上に
 始動の動作がないので今後攻防にも使えなさそう。
 オカダと戦うのだし、それこそレインメーカーみたいに一回腕巻きつけてとかでも良かった。
 好勝負に少し届かず。

・試合後ジェリコが俺こそがAEWで、TV契約も俺のおかげだとアピール。
 ジョン・モクスリー(ディーン・アンブローズ)がサプライズで現れジェリコにダーティ・ディーズ。
 戻ってきたオメガと乱闘を繰り広げダーティ・ディーズ。


総評
 オールスター系興行自体はこれまでに何度も行われてきましたが、
 "アメプロ"の展覧会ではなく"プロレス"のそれで、
 尚且つトップをしっかり世界レベルのスーパースターが務めたことはこれまでに無かったことです。
 大事なメインが若干クオリティは期待に届かなかったものの
 旬なモクスリーの参戦(更にNJPWの試合内容・結果で益々話題沸騰)によって
 間違いなく5つ星の大会だったといえるでしょう。
 
 後は今回の内容がどこまでAEWのカラーとして定着していくか。
 新機軸を打ち出せるかどうか。

 女子プロは引き続き日本ベースでブックしたいし、
 コーディvs.ダスティンは意図せざるものも含まれた結果でしょうが、
 この試合が観客に刻み付けた80年代テイストは大切に扱って欲しい。

 事前のインタビューで流れていたスポーツライクやアスリート要素がなかったので、
 上記がなくなるとPWGに近しくなってしまいますからね。

 メジャー・プロレスに影響を与えていく存在になるにはオリジナルでないといけない。
 
 しかし不安要素ゼロの旗揚げ大会なんてありませんから、
 そこ含めて注視していきたい、と思わせただけで最高に成功している大会です。
 (執筆日:5/?/19)
Rating:★★★★★

注目試合の詳細

なし

試合結果

@初代AEW王座#1コンテンダーズ・22マン・カジノ・バトル・ロイヤル(勝者:ハングマン・ペイジ)
Aキップ・セイビアンvs.サミー・ゲヴァラ
@ソーカル・アンセンサード(クリストファー・ダニエルズ、フランキー・カザリアン、スコーピオ・スカイ)vs.ストロング・ハーツ(CIMA、エル・リンダマン、Tホーク)
Aブリット・ベイカーvs.オーサム・コングvs.カイリー・レーvs.ナイラ・ローズ
Bベスト・フレンズ(トレント、チャッキーT)vs.アンヘリコ、ジャック・エヴァンス
C志田光、里歩、水波綾vs.アジャ・コング、さくらえみ、坂崎ゆか
Dコーディvs.ダスティン・ローデス
EAAAタッグ王座戦:ヤング・バックス(ch)vs.ルチャ・ブラザーズ(フェニックス、ペンタゴンJr.)
F初代AEW王座#1コンテンダーズ・マッチ:クリス・ジェリコvs.ケニー・オメガ