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Wrestling Heart:Match of the Year 20's part1の分析


名勝負 統一ブリティッシュ・ヘビー級王座戦:ザック・セイバー(ch)vs.ウィル・オスプレイ(RPW 2/14/20)

ブライアン・ダニエルソンvs.鈴木みのる(AEW Rampage 10/15/21)
好勝負 なし

◆2020年
@統一ブリティッシュ・ヘビー級王座戦:ザック・セイバー(ch)vs.ウィル・オスプレイ(RPW 2/14/20)
 新日で行われた一戦が本土で早くもリマッチ。

 最初の演舞から度肝を抜きます。
 演舞のかわしの精度は飛びぬけて高く、
 45度方向のロープ・ワークを混ぜ込み変化させ、
 ユーロのムーブも大胆に取り入れます。

 セイバーはノラリクラリと間を置きつつ、
 試合全体としてはハイ・テンポに動きます。
 絶妙のペースで目を離そうとしても離しきれません。

 オスプレイが転がされると同時にハンドスプリングに行き、
 そこをセイバーがロックに捉えたりと
 重層の切り返し合いが極上。

 オスプレイもあっての試合で
 彼がいるからこそ試合が2次元から3次元になっていますが、
 それを超えてセイバーの完成度が究極のレベル。

 ギュっと切り返し合いを詰め込んでいるにも関わらず、
 ムーブの為の動きに見えることもなく、
 ダメージ軽視に見えることもなく、
 言葉で表現しきれない飛び級の攻防で、圧巻のディティールにも裏打ちされている。

 新日の一戦を更に超えてきました。
 歴史的な名勝負。
  (執筆日:3/?/20)


◆2021年
ANEVER無差別級王座戦:鷹木信悟(ch)vs.棚橋弘至(1/31/21)
 棚橋は剛を柔で制する、を地で行く戦略。

 鷹木はそれにとってハードに当たりつつも
 髪を掴んで倒すといった変化、調整の余地を残しているのが上手いですね。

 棚橋が低空ドロップ・キックから脚攻め。

 これに対する鷹木の受けがまた良い。
 脚の痛みを表現しつつパワフルさも両立させます。

 変化、切り返しを織り交ぜ独自感。
 全体の構成的にもベストなシーン作りです。

 鷹木が膝へのパンピング・ボンバー。
 強烈な絵になりつつ圧倒的リアルも感じさせます。

 鷹木の間を埋める仕草が表現を豊かにし、
 お互いが脚攻めに寄せつつも自由闊達でそれでいて芯がぶれない。

 棚橋攻めの展開による意味合いをしっかり理解し、
 攻防の発展性も適切に活用しています。
 だからこそ、いまだに名勝負製造機足り得ているのだと感心させます。

 更には強烈な打撃合戦で気合のぶつかり合い。
 単純な帰結ではあるが、圧倒的に凄まじいし
 鷹木の細かなディティールは最後まで徹底されていました。
 最後はNEVERのど真ん中直球剛速球で〆。

 跳ねうる試合とは思ってましたが、それにしてもここまでとは。
 想像以上。
 
 文句なしに名勝負。MOTY候補です。

◆2022年
Bタッグ王座戦:ブリスコ・ブラザーズ(ch)vs.FTR(ダックス・ハーウッド、キャッシュ・ウィーラー)(ROH Supercard of Honor 4/1/22)
 両者プロレスのタッグの歴史の目次に名前を刻むことが
 現役にして確定している最高のタッグ。

 その一戦に気合い入りまくり。
 気持ちをムーブに120%反映させるジェイ。
 ダックスもハードに応戦しますね。
 この2人はシングルでも一線で活躍する
 ストーリー・テリング能力があるので、そこでも魅せていました。

 マークもキャッシュも2人に負けじとボディ・コンディション整えて
 キレの良いパフォーマンスを見せていましたね。

 精度の高いタッグ・エッセンス。
 連携技を通常技レベルで使って畳みかけるとかせず、
 孤立のタッチ出来るか出来ないかも天丼をしない、という敢えての選択に
 この試合にかける意気込みを改めて感じました。

 中盤のテーブルを巡る攻防で流血、
 更に終盤には試合が止まるのでは、と思うほど強烈な断崖式ブレーン・バスター、という
 印象的なスポットもありドラマ性は十分です。
 
 この身体を張った一撃は当然に重々しく見せつつも
 必要以上に間を空けずに仕切り直して再度クライマックス。
 冗長には語らず、死力を尽くすためだけの攻防で帰結。

 タッグは80年代に序盤のフェイス/ヒールの型、中盤の孤立の型が作り出されて、
 90年代にドラマ性が付与されて、
 00年代にはインディー・レスラーがドラゴンゲート等の影響も受けながら
 連携技、合体技をこぞっと開発して来ました。
 そして10年代にはタッグ・ワークの複雑性を押し広げてきました。

 ブリスコズ、そしてその後に続くFTRは共に最前線で活動して来た訳ですが、
 この試合ではどの要素も100%、120%やりきろうとしてないんですよね。
 それでも全ての要素を押さえていて、100点を目指していない訳ではないという所に凄さを感じます。

 バトル・オブ・ザ・ディケイドとしてプロレスの教科書にのせるべき
 ザ・クラシックを作り上げて来ました。

 歴史的な名勝負。
 (執筆日:4/?/22)

◆2023年
CAEW世界王座戦、60分アイアン・マン・マッチ:MJF(ch)vs.ブライアン・ダニエルソン(AEW Revolution 3/5/23)
 そのキャラクターに比例する程には
 試合のスキルを評価していなかったMJFですが、
 この試合はまさにその評価を大きく変化させるものでした。

 形を整える以上の体勢の見せ方に気を使っていて、
 特に得意の煽り力に関して出し方をコントロールし切っている点に関心しました。
 過剰になり過ぎていません。

 短い煽り、長い煽り、ベーシックな軽快な韻踏の攻防。
 この組み合わせのバランスが最高です。

 MJがフェンス攻撃を仕掛けて主導権を握り15分経過。
 ブライアンは肩にテーピングをしているので、
 ここで腕狙いの展開でもして時間を稼ぐかと思いきや
 自制しながらリアルタイムに考えをこらしながら試合を進めます。

 20分経過し、ブライアンがトペ。
 ブライアンは節目となるポイントを作りつつ、
 長期の視野でそれを織り込んでいるのが見事。

 ブライアンは間違いなく稀代のプロレスリング・マスターですが、
 60分試合に拘っていた2005年のROH王者時代は
 なんだかんだ発展途上だったので、
 彼の60分試合のマスターピースって余り印象にないんですよね。
 直近のvs.ペイジは素晴らしかったものの60分ではない試合の方が数え歌の中でトップに位置付けられますし。
 それをこの試合でキャリアに残る集大成を作ろうとしてきた感があります。 

 ブライアンが先に先取し25分。
 ここでMJFがロー・ブローDQから2本連取。
 敢えてDQから連取するというのは定番ですが、
 今回は敢えて2-2で止めます。
 エンタメへ舵を切った展開かと思いきやそのまま本格派を継続。

 受けによる場の誘導、ムーブに依る気迫の表現。
 脚攻めの追加、場外テーブル・スポット。
 アクセントの追加の仕方も素晴らしいですね。

 40分を目前にしたタイミングでテーブルへのツームストンでブライアンが流血。
 ペイジvs.モクスリーの凄惨さの前に効果が薄れていますが、
 このタイミングで一気に移入感を高めたのはジャスト・タイミング。

 そしてこのスポット含めてMJFがポイントとなる攻めのスポットで
 自らの脚も犠牲にしていることを示したことが激闘感を一層掻き立てており、
 本当にこれまでのMJFから進化した一面を見せました。

 MJFが言葉も使って攻撃的な煽りを見せ、
 ブライアンがシチュエーションに合った技使いで場を強化。
 そしてブライアンのダイビング・ヘッド・バットでMJFも大流血して残り10分。

 緊張感とお約束の書式を上手くミックスさせて美しい帰結に持って行きました。

 HBK vs.ブレットがAttitude Era前のプロレスで消化しきれなかったお題目を
 現代プロレスとして、しかしながら、そのプロレスの真っすぐな延長線上として、
 マスターピースとして昇華して見せた一戦でした。

 歴史的な名勝負。
 (執筆日:3/?/23)