TOP日本のプロレス新日本プロレス 90年代の大会 →新日本プロレス:New Japan vs. UWFi Tokyo Dome 10/9/95

新日本プロレス:New Japan vs. UWFi Tokyo Dome 10/9/95の分析


名勝負 なし
好勝負 IWGP王座戦:武藤敬司(ch)vs.高田延彦

2枚、約3時間です。

@石沢常光、永田裕志vs.桜庭和志、金原弘光
 アマレスの技術を使った攻防がメイン。
 永田が最高の仕事をしましたね。
 まず細かい交代で試合序盤のリズムを作りました。
 そしてガチを仕掛けてきた相手に対しアマレスの技術で相手を上回った上で
 連携のレッグ・ロックやジャーマンを打ちプロレスの見せ場作りもこなしています。
 石沢も技術があるが永田とは違い必要以上に膠着になってしまう場面が目立ちましたね。
 桜庭は永田を引き立てる形になりましたが積極的な仕掛けが試合を面白くしました。
 一方で金原は蹴りを主体にしてスタイルが違うからこそまだ存在価値はあるものの
 相手が蹴り返してくれないと魅せれないようで干された形です。
 まあまあ良い試合。

A大谷晋二郎vs.山本健一
 大谷が見得を切ってプロレス技を決めてとやりたい放題。
 蹴りに対しても受けに回りセールしましたが
 それをするには山本が容姿にしても蹴り自体にしても冴えない。
 少し悪い試合。

B飯塚高史vs.高山善廣
 黒髪で細い高山を見れる、という見世物的価値だけ。
 何も無い高山相手では飯塚も技術を見せれず
 何の解決方法も見出せないまま負けの時間を迎えます。
 ひどい試合。

C獣神サンダー・ライガーvs.佐野直喜
 90年代ジュニアへの入り口を開いたこのカードがUインターとの対抗戦により再び実現。
 ライガーがUWF的な緊張感で歩み寄ると
 佐野もトペなどのサービスで応えます。
 しかし両者共ベースは自分のスタイルに置き、
 そのスタイルに引き込み合おうとする駆け引きを焦点として作れています。
 お互いの成長が見え面白かったものの
 この内容で10分程では以前の試合と比べ物足りないですね。
 平均的な良試合。

D長州力vs.安生洋二
 MMAプロレスをしようとする安生に対し、
 長州力が軽くMMAでこずいて気持ちを折れさせた後
 プロレス技でスカッシュ・マッチを終えます。
 試合に反し安生の華の無さと長州の喋りの聞き取れなさはトップ・クラス。
 ちなみにこの試合後インタビューで切れてないですよ(切れちゃいないよ)と口にしています。

E佐々木健介vs.垣原賢人
 健介の優しさからすんなりとMMAプロレスに順じます。
 しかし下手なのは変わりないし、
 どうしても静止するシーンが多くなる中で
 表情や内から滲み出る物で魅せれない健介はきついですね。
 そんな非難するものでもないけど、悪い試合です。

F橋本真也vs.中野龍男
 プロレスの構築論でやっているので
 しっかり見せ場も作れていますね。
 その中でUWFのリアリティーもある程度成功している。
 只セミでやるには格の差があってそこまで広げきれない。
 平均レベル。

GIWGP王座戦:武藤敬司(ch)vs.高田延彦
 リアリズム。
 そのテーマに武藤は誰とも違う答えを見せました。
 まずグラウンドに応じながら攻めるつもりは無し。
 何も起こさない、起こらない、というプロとして失格な行為によりリアルに高田の不満を蓄積させ焦らせるのが狙いです。
 挑発も加えて高田が自ら諦め、蹴りをベースに変えるように促します。
 次にUWFに否定されたロープに走ってエルボー・ドロップ、ムーンサルトを放ちます。
 これらはUWF的世界では避けて良い馬鹿げたムーブ、”戦い”の中では無意味なので他の者は避けてきましたが、
 アメプロも経験した武藤はそれを持ってプロレスを代表する立場になれる事に気づき、実行しました。
 そしてドラゴン・スクリューという後の定番となる仕掛けと共に
 これまた否定された4の字でフィニッシュして決める(+高田の延髄切りをノー・セル)。

 表現上の物ではなく構築者としてのリアルな心理戦で持って試合を自ら望むように作り上げ
 イデオロギー闘争というストーリーに持っていったのは信じられない妙技です。
 新日ナショナリズムを大いに刺激した事でしょう。

 しかしてそこにあるのは高田に対しての否定です。
 相手の魅力を理解し輝かせる”肯定のための否定”ではなく相手を認めず殺すための”否定のための否定”。
 飄々とした顔の底に隠れた悪意。
 要するに彼のやっている事は”戦争”なんです。
 俺には守るべきものがある。
 それを大義名分にして”勝てば官軍”の理で弱者を鎮圧し平和の旗を立てる。
 でもそれは間違ってる。
 その裏で泣いている人間がいるんだよ。
 プロレスって理想主義であるべきです。
 闘うなというんじゃない。
 馴れ合えというんじゃない。
 試合である以上闘いはあるし、そこに私情が絡んでくる事もあるのは当然です。
 勝負論に拘ったって良い。
 しかし最後の最後には勝負を超えた高次のレベルにいって欲しいんだ。
 闘いという”対話”で持って平和がもたらされる風景が見たいんだ。
 人間を信じさせて欲しいんだよ。 
 私はそれをプロレスに求めている。
 
 只武藤ばかりを責める訳にもいかないだよ。
 もう一方の高田。
 苦しかったと思うよ。
 UWFiは実質的に新日に吸収されて子飼いとなり、囚人として武藤にぶつけられたんだから。
 そんな状況で、諦め、受け入れてしまったのも分かる。
 しかしね。
 どんなに厳しい状況にあったとしても強制された訳じゃないんだ。
 最後まで選択の自由は高田自身の手の中にあったんだよ。
 否定を否定し肯定が生まれる可能性に賭ける事だってできたんだ。
 そう、新日を飛び出してUWFに参加したあの頃のように。
 高田も守るべきもののために闘って欲しかったんだ。
 その姿が私は見たかったよ。
 食っていくために大事なものを捨てて欲しくなかったんだ。
 しかし現実は小説のようにはいかなかった・・・。
 
 クオリティ論から言って凡戦といっても過言ではない
 この試合を特例的に評価するのはこの試合が純度100%の戦争だからです。
 そしてそれ故に私はこの試合を憎む。

 雲泥の底の闇を決して賛美する事なかれ。
 反面としてその傷を抱いておくれ。
 この世界に許しを。

 命脅かされし求道者は優しさを失い、
 夢を追った求道者は現実の前に倒れる。
 闘いはこのようにして終わる。
 闘いはこのようにして終わる。
 華々しさの陰ですすり泣くように。

 この世界に許しを。許しを。許しを・・・。

 ぎりぎり好勝負。


総評
 史上最高と言われる熱狂的な盛り上がりは一見の価値あり。
 ただし試合に関しては単純なそのクオリティよりも
 それぞれの性格、普段見られない物が見れる、が故の面白さです。
 (執筆日:9/15/09)

DVD Rating:★★☆☆☆

注目試合の詳細

GIWGP王座戦:武藤敬司(ch)vs.高田延彦
  握手を交わす。
  高田が蹴りで牽制。
  脚を取りに行く。
  武藤が防ぎバックを取る。
  高田が脚を取りに行く。
  武藤も脚を取る。
  高田は起き上がって抜けると覆いかぶさる。
  武藤がバックに回りアーム・バーを狙う。
  高田はロックして防ぐと脚を取って起き上がる。
  今度は武藤が起き上がる形となりインディアン・デス・ロックを狙う。
  高田が回転して防ぐ。
  武藤が狙うも無理と見て脚を抜く。
  仕切り直し。
  武藤は相手と組まず周りを回る。
  高田がフロント・ヘッド・ロックへ。
  武藤が外し一本背負いを狙う。
  高田が防いでバックを取る。
  アーム・バーを狙う。
  武藤が防いで覆いかぶさる。
  腕を取ろうとする。
  高田が脚を取って立ち上がる。
  締めようと倒れる。
  武藤は体勢を起こして防ぐ。
  5分経過。
  武藤が覆いかぶさる形。
  離れるとロープに走りエルボー・ドロップへ。
  高田が避けるとすぐ立ち上がり蹴りを放つも武藤は避ける。
  仕切り直し。
  高田が脚を取りに行く。
  武藤が防いでバックを取る。
  高田が体を反転し武藤が覆いかぶさる形。
  武藤が髪を掴むとヘッド・バッドを入れる。
  起き上がるとストンピング。
  起き上がった高田に蹴りを入れソバット。
  高田にダウン・カウントが入る。カウント8。
  高田が脚を中心に蹴りを叩きこんでいく。
  武藤が倒れる。
  ダウン・カウントは7。
  高田が蹴り。
  蹴り。
  蹴りを放つ。
  武藤は受け止めると倒しに行く。
  覆いかぶさる形。
  高田が脚を極める。
  武藤がロープに逃げる。
  高田が足をけると思いきやハイ・キック。
  フロント・ヘッド・ロックを決めるとニーを突き上げていく。
  武藤がバックを取りジャーマン。
  高田を起こすとバック・ドロップ。
  ムーンサルトへ。
  しかし避けられる。
  10分経過。
  高田が胸に蹴りを3連発入れ倒す。
  アーム・バーへ。
  武藤がロックして耐える。
  高田が引き離す。
  武藤は体を起こしてロックしなおす。
  高田が引き離しにいくも武藤はロープに逃げる。
  高田が起き上がろうとする武藤に蹴り。
  脚に蹴りを入れていく。
  殴りつけてきた武藤を蹴りつけて倒す。
  カウント3。
  高田がバック・ドロップからアーム・バーへ。
  武藤がロックして耐える。
  高田が引き離す。
  武藤はロープに脚をかける。
  高田が武藤の顔に張り手。
  胸に蹴り。
  胸に蹴り。
  ニーを突き上げていく。
  武藤が突進しロープ際で崩れこむ形に。
  レフェリーが離す。
  武藤が脚を取りに行く。
  高田がカウンターでニー。
  崩れた武藤を蹴りつけアーム・ロックを狙う。
  諦め蹴りを放つ。
  武藤が受け止めドラゴン・スクリュー。
  4の字を決める。
  高田は脚を押し上げ外そうとするも無理。
  何とかロープを掴む。
  武藤が高田の脚を持ち中央に引っ張ろうとする。
  高田が抵抗して蹴り。
  蹴りを入れ起き上がるも
  武藤がすぐに脚を取りドラゴン・スクリュー。
  4の字を狙う。
  高田が武藤の顔を蹴りつけ防ぐ。
  武藤の脚に蹴り。
  胸に蹴り。
  15分経過。
  蹴りを放つ。
  受け止められるも引き放しニー。
  胸に蹴り。
  後頭部にハイ・キック。
  武藤がダウン。
  カウント6。
  胸に蹴り。
  受け止められ延髄切り。
  武藤は肩膝をつくもすぐに4の字へ。
  高田は脚を押さえるも決まってしまう。
  高田のギブ・アップで武藤の防衛!

試合結果

@石沢常光、永田裕志vs.桜庭和志、金原弘光
A大谷晋二郎vs.山本健一
B飯塚高史vs.高山善廣
C獣神サンダー・ライガーvs.佐野直喜
D長州力vs.安生洋二
E佐々木健介vs.垣原賢人
F橋本真也vs.中野龍男
GIWGP王座戦:武藤敬司(ch)vs.高田延彦