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コラム:世界三大アイアン・マン・マッチ


@Xディビジョン王座戦、60分アイアン・マン・マッチ:ジョシュ・アレキサンダーvs.TJP(Before the Impact/Impact Wrestling 6/4/21)
 (まずはCMあり版でのレビュー)
 Impact初の60分のアイアン・マン・マッチです。

 事前番組からスタートというのが不思議ですが、
 試合が始まるや1分で約5分のCMを挟んできて嫌な予感がします。

 筋は通っているものの彼らにしてはオーソドックスな攻防。
 それぞれ得意技の前振りを利かせてセットアップしていきます。
 ジョシュがジャーマン連打に移った所でCM。
 試合のステージが切り変わった所でCMは良くありますが、
 ジャーマン連打していて終わっていない所でCMには呆気に取られました。

 丸め込みの応酬からジョシュが先取したのが20分経過時。
 
 場外転落スポットやロープ絡みのサブミッション、と
 スポットが見栄えするようになりますが、
 まだ明確な戦いの意図がないまま時間が進んで35分経過。

 ここでようやく攻防に狙いが見えてきます。
 CM入って残り15分になると
 エプロン、花道に移り、この特別な試合にふさわしいドラマチックな見せ場になります。

 ただ見せ方による盛り上げなので、
 アクション・スターのTJPの良さがどこまで出ているかというと疑問。

 残り8分となって本編の番組:Impact Wrestlingに突入。
 流血したジョシュに対し、
 0-1で負けているTJPが盛り返しますが、
 先ほどと明確に技のテンポ感を変えていますね。

 終盤に向けたギア・チェンジが半分。
 残り半分は明確な番組意識。、
 悪くはなかったので、やや語弊はありますが、
 これだとBefore the Impactの攻防は手抜きでは、という感も。

 ジョシュがアンクル・ロックを重ねがけで追い込み、
 0-2という屈辱の結果をせめて避けるのが精いっぱいかと思わせて、
 最後の驚きの切り返しは実にお見事なムーブでした。

 良い形でサドンデスを迎えましたが、
 最後の展開考えるとTJPは脚の痛みで動きづらくして欲しかったし、
 ジョシュがラッシュをかけて押し切るのは拍子抜けで、
 この状態からシーソーゲームを出来るのがこの2人では。
 サドンデス余りに短かったですね。

 数え歌化してこの形式が組まれた時は歓喜の声を上げましたが、
 十数分の試合でいつも見せていた濃縮なアクションは見られず。

 ロング・マッチの構成としては確かに間違いがなく、右肩上がりになっていますが、
 単なる良質な60分マッチでは物足りない。この2人ならではの凄さがもっともっと出せるはず。

 ぎりぎり好勝負。
 (執筆日:6/?/21)


 (続いてノー・カット版でのレビュー)
 放送時は随分とひどいCM編成がされていましたが、
 フルVerがアップされていたので再視聴。

 自分の動きのコントロールが出来ていますね。
 自分の動き出しのタイミング、
 相手にバトンを渡すタイミング。

 これまでの数え歌で見せていた高度なフリー・テクニックのレスリングの攻防ではありませんが、
 流した演舞にもせず長い道のりの最初の土台として適切なものに仕上げています。

 ジョシュが腕に狙いをつけるもTJPは制されないように逃れ、
 プランチャで逆にリードを狙うも不発。
 押さえつつ見せ場をしっかり作る堅実な構築です。

 10分経過し、投げも解禁する中で、
 ジョシュがドラスクを決めればTJPも脚DDT。
 地味なプロセスながら積み重ねとしては非常に大事ですね。
 派手なスポットではないのでCMカットの犠牲にするなら
 ここというのも納得できるが試合を毀損している。

 15分経過して切り返し合い。
 先になかった大きなメリハリをつけてジョシュが完全に主導権を握ります。
 テンポ・アップして最初のクライマックスへ。
 演舞の中で未遂に終わった動きの意味性が感じ取れるのが素晴らしい。
 60分の中の20分の位置なので過激な所は押さえつつ
 軽さを感じさせない最初の丸め込みフィニッシュでした。

 ジョシュが首狙いへ。
 展開の中で流すこともできたでしょうが、
 それぞれ自分の意志で個々の場面作りを考えていてイノベイティブでしたね。

 場外への道連れスープレックスなど
 両者の志向性が攻防に色濃く出始めます。
 TJPの欠点であった感情面も問題ありません。

 1ポイント優位に立ったジョシュが
 アンクル・ロックに滞空式ブレーン・バスター。
 両面からの追い込みはジョシュを更に強大に際立たせます。
 
 1ポイントの差を厳然と突きたてた中で
 TJPへの応援の熱も高まっていきましたね。

 丸め込み合戦という定番の攻防を挟みますが、
 お約束を感じさせつつも
 それに安易に流れず、緻密に見せ方をコントロールしています。
 自分の見せたいもの、作りたいものがそこにはあります。

 残り20分。
 ストーリーの補強を重ね、激しく疲弊しながらも
 全体の中でのラインからぶれずに真っすぐベクトルを合わせていますね。

 再びエプロンに打ち付けられ絶望的なTJP。
 花道に移って完全にジョシュが仕留めようとする所で、
 TJPが何とか隙を突いて切り返してツームストン。
 ジョシュの流血もあり、エピック・マッチの熱を帯びていきますね。

 50分経過時に本編に突入し、レスラーがリング・サイドを取り巻いて応援します。
 また一気に雰囲気がより入っていくのでこの仕掛けは良いのですが、
 番組が切り替わったから、なんて無粋なタイミングにせず、
 先ほどのエプロン、花道の攻防当たりで入れて欲しかったのが本音。

 追いつくはずなのに追いつけない、
 一刻一刻なくなっていく試合時間との戦いはお見事。
 最後の奇跡的動きは演者も素晴らしかったですが、
 取り巻くレスラーも良い表情していましたね。

 サドンデスはふらつきながらの殴り合いから
 疲労感MAXの中で端的にまとめました。
 ここはもう少し時間を割いても、という気はしますが、帰結としては悪くない。

 総じてアイアン・マン・マッチの名品。
 ただCM編集が仕方ないかな、と同情はしつつも想像以上に微妙。
 ノーカット版が公開されて良かったですね。

 Wrestling Heart認定世界三大アイアン・マン・マッチの
 エドワーズvs.ビフを僅差で追い抜く出来ですね。

 ぎりぎり名勝負。
 (執筆日:8/?/21)

Aアルファ・メイル王座戦、アイアン・マン・マッチ:ジョシュ・アレキサンダー(ch)vs.コービー・ダスト(Alpha-1 Wrestling 12/2/18)
 1年間で2度目の同一カードアイアン・マン・マッチ。
 1年間に限らずともプロレス史上初めての試み。
 前回と違うのはジョシュがヒール、コービーがフェイスになっています。

 コービーが過去の試合を踏まえて翻弄しにかかります。
 単独で見るとキャラを活かしきれていない印象もありますが、
 過去の試合を見ていると悪くない出だしです。
 道連れのラナから場外に移り10分経過。
 前回も使ったバー・カウンターの攻防を惜しみなく使い、
 ジョシュがハイ・フライを受け止めカウンターへのパワー・ボム。
 カウンターが冴え渡るジョシュがレッグ・ロックで先取。
 19分経過。
 前回のアイアン・マン・マッチと同じ1本目の試合時間配分ですが、
 その充実度は間違いなくあがっていますね。

 フェイスらしく粘りを見せるコービーに
 ジョシュが非情なカウンター・リバース・ツームストン。
 25分経過で2-0に引き離します。
 ジョシュは肩紐を外して打ってみろよ、と誘って倍返ししたりと
 ドミネイトしつつも上手く緩急をつけています。
 スーパープレックスからのみちのくドライバーでも
 コービーは1本取ず、厳しい状況の中、
 パイル・ドライバーで更にジョシュがフォールを奪い、3-0で30分折り返し。
 圧倒的な強さ。
 他のレスラーにはない魅力ですね。
 一本筋のストーリーながら単調さを感じさせずドラマチックに魅了しました。

 そこから40分までの10分間で一気に3-3へ。
 大逆転劇のブックの為とはいえ
 30分かけて作ってきたジョシュの強さを浪費しすぎにも思えます。
 しかしジョシュ自身かなり疲労感が出てきてましたが、
 すぐに力強さを取り戻せるのが素晴らしい。

 キーとなる技であるパイル・ドライバーを要所に使いながら演出。
 そんな中コービーがスリーパーを決めるとジョシュはコーナー上へ。
 そこからリングにたたきつけるかと思いきや
 リングサイドのテーブルに落下(51分)。
 完全KO状態となって時間を稼ぎ、残り6分クライマックスへ。

 フェイス/ヒールが変わったこと、
 時間を10分ではなく6分に絞ってきたことから
 過去2戦と異なりクライマックスも2人らしさを凝縮できています。
 サドンデスになった後も激戦を繰り広げ、
 2人のマスターピースを作り上げました。
 この抗争通じてのコービーの成長にも感心しましたね。
 プロレス史において3本指に入るアイアン・マン・マッチです。
 ぎりぎり名勝負。
 (執筆日:3/?/19)

BSPW王座戦、7番勝負第7戦、60分ハードコア・アイアン・マン・マッチ:アダム・ソーンストー(ch)(3)vs.リック・ラグジュリー(3)(SPW 10/28/07)
 まったく見たた事のない団体のまったく見たことのない選手。
 しかし、まったく見たことのないような名勝負なのでありました。
 序盤のレスリング。
 しっかり形がついていて
 名のない団体の大半がそうであるようなリアリティーのなさはありません。
 腕に狙いをつけたリックは
 リスト・ロックから捻ってマットにたたきつけたり
 古式インディアン・デス・ロックを決めたりと
 ほお、と唸らされる攻めを見せます。
 良く研究していますね。
 一方ヒールのアダムはストンプ系が武器の選手。
 ストンピングの際は思いっきり上げてから振り下ろしており実に絵になります。
 画鋲付キックパッズを持ち出しリックを追い込みます。
 ここで15分経過。

 リックが反撃を開始しビッグ・ブーツ連打で流れを作ります。
 威力は十分で説得力ありますね。
 トペにいくもアダムが椅子で打ち落とします。
 ぐったりとロープに引っかかったところで
 先ほどのキックバッズで蹴り連打。
 良く考えられたスポットです。
 その後ハードコアな場外乱戦。
 ラダーも飛び出しました。
 凶器攻撃に引けを取らないフェイス・ウォッシュなどの
 ハード・ヒッティング技も豊富です。
 まったく疲れを感じさせないアドレナリン前回の潰しあいは
 リックのゴミ箱によるヴァン・ダミネーターで1本目の幕を閉じます。
 ここで16分。

 リックは理屈どおり連取を狙いにいき、
 アダムは1本取られたKO寸前の状態から
 何故2本目を取られないか理屈のある凌ぎ方を見せる。
 そして通常形式と同じ要領で反撃の流れを生み出します。
 戦場は(言い忘れていましたが会場は体育館です)ステージに移り、
 ステージ前のテーブルを巡る攻防に。
 ここでも簡単に決めず、ぎりぎりの防ぎあいをした後、
 入場セットの上からのダイビング・ダブル・ストンプという
 予想を超える方法でテーブル葬してきます。
 これを決めたアダムがリックをリングに戻してフロッグ・スプラッシュ。
 25分経過時に1-1に追いつきます。

 その後は有刺鉄線ボードを取り出してくるわ、
 椅子を頭に引っ掛けてドロップ・トー・ホールドを決めるわ、
 鉢を被せてダイビング・ダブル・ドロップで割るわ、と
 デス・マッチ同然の更に過酷な削りあい。
 その結果、アダムが連取し2-1とします。
 この時点でまだ35分。
 本当に試合が続行できるのかと心配になってきます。
 ここで試合中止にして現時点での本数からアダム勝利としても
 誰も文句を言わなかったでしょう。
 しかしリックは頭部にテーピングを巻いて再び試合に赴く。
 ここまで過激なことをやればリアルもリング上の仮想もズレなんてありません。
 過激なスポットに喘ぎ、苦しみ、
 それでも精神力で返していく。
 ぼろぼろになり休む必要がある時には休み、
 それでも動かなければいけないと動く。
 ハードコアな乱戦が続きます。
 場外にテーブルを設置し、横にラダーを立てます。
 ラダーを上りテーブル葬かって。
 いやいや、そんな生易しいものではなく、
 ラダー上からバスケのゴールに移り、
 そこからダイビング・エルボー・ドロップでテーブル葬。
 息も絶え絶えにリングに移り、50分経過時に2-2の同点となります。

 最後の10分は乱戦もできない状態で
 (リアルとしてもリングの戦いとしてもです)、
 膝を突いての殴り合いやスリーパーで落としにかかる。
 スリーパーで駄目なら画鋲をばら撒いて画鋲へのクラブ・ストンプ。
 これでも終わらず最後は体に鞭打って必殺技を狙いに行く。
 ここまでハードコアの髄を尽くして、
 最後はリックが必殺技の体勢に入ったところを潰してのカウント3。

 実に素晴らしい心意気です。
 Holy Shit!と叫ぶことも忘れる過激さと
 真摯なプロレスへの思いが同居したとんでもない試合です。
 デス・マッチの狂いとも一線を画していて
 DVD製作もまだされていないような小さく、
 そして割に合わないペイしかもらえらない団体で
 何故ここまでの試合が生まれるのか。
 理解不能の凄さです。
 ぎりぎり名勝負。
 この試合はYoutubeでフルで見られますよ。
 まだ再生回数が20回程の掘り出し物。
 (執筆日:4/25/12)